良く聴くノート | 認定補聴器技能者による補聴器と聴こえのブログ

補聴器外来を受けたい人のための 良い補聴器外来 の考え方を紹介します

2020/07/03
補聴器外来
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前回は  補聴器外来ってなに? 補聴器外来の流れについて  と題して、耳鼻咽喉科で行われる補聴器外来について紹介しました。

補聴器外来は実施手順が詳細に定められているわけではありませんので、実施している医療機関によっては内容の質にバラツキが生じてしまっているのが現状です。

今回は補聴器外来経験を持つ認定補聴器技能者として、良い補聴器外来はどのようなものなのかを考えました。

ここで注意していただきたいことは、
良い補聴器外来でない = 悪い補聴器外来である ではありません。

すべての補聴器外来は、耳鼻咽喉科医師が診察を行った上で、補聴器の使用が望ましいと判断された患者に対して行われます。
悪い補聴器外来というものは一つもありません。
ただ、補聴器をより良く使うために、より質の高い補聴器外来を行っている耳鼻科もあるということです。

設備こそ充実していないけれど、自宅から徒歩で通えて親身に話を聞いてもらえるクリニックもあります。
最新設備を準備し優秀なスタッフを揃えた専門性が極めて高い大学病院だけれど、電車で1時間以上かかり、紹介状が必要であり、予約もなかなか取れないということもあります。

補聴器は生活の質を高めるツールですが、病院に通うことに強いストレスを感じてしまったら生活の質を下げてしまうことも有り得ます。
当ブログの記事だけを判断基準にして、どこの補聴器外来を受けるのかを決めるのではなく、自身の生活スタイルとも照らし合わせて慎重に検討するようにしてください。


良い補聴器外来

上図は「良い補聴器外来」についてをまとめたものです。
必ずしもこれら10項目をすべて満たしている必要はありませんが、なるべく多くを満たしている方が良いでしょう。

このように考えた理由を一つずつ説明していきます。

1.補聴器相談医の管理下で行われている
耳鼻咽喉科専門医であるからといって、必ずしも補聴器や聴覚に詳しいとは限りません。
鼻や喉を専門的に勉強されている先生もいらっしゃいます。
耳鼻咽喉科専門医のうち、補聴器についての一定以上の知識があることを示す資格が補聴器相談医です。
日本耳鼻咽喉科学会では、補聴器相談医について次のように紹介しております。

補聴器相談医は聞こえが不自由に感ずるようになった人に対して、耳の状態を診察し聴力検査を行い、難聴の種類を診断します。治せる難聴に対しては治療を行います。治せない難聴に対しては真に補聴器が必要なのかどうかを診断し、必要があれば専門の補聴器販売店を紹介し連携してその人に合った補聴器を選びます。もちろん補聴器が適正に選択調整されているかを判断し、販売が適正に行われているかを判断し、疑問があれば販売店を指導します。また、補聴器が決まった後も、聴力が悪くなっていかないかの経過観察を行い、適切な補聴器の使い方の指導も行っていきます。

引用:補聴器相談医とは? 一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会
http://www.jibika.or.jp/citizens/senmon/hochouki.html


医学的な知識だけでなく販売倫理などの観点からも、補聴器について勉強されている先生方ですので、患者の皆様にとっては特に安心です。

補聴器相談医でなくても、独自に補聴器のことを勉強されている先生は多数いらっしゃいます。
中には補聴器についてはほとんど詳しくないので、補聴器外来には信頼のおける認定補聴器技能者を担当させているという先生もいらっしゃいます。

補聴器相談医であるかどうかは、一つの目安としてお考えください。


2.認定補聴器技能者が対応している
認定補聴器技能者は、4年以上の実務経験があり、補聴器に関する基礎知識に関する筆記試験に合格しています。

補聴器外来の中には、実務経験が1年程度であったり、基礎知識を習得していない者が担当している場合もあります。
極論ですが、補聴器は基本的な接客ができれば誰でも販売することが可能です。
補聴器メーカー各社も、簡単に補聴器を販売できる工夫を多く取り入れているので、少しの研修で最低限の接客販売ができてしまいます。

認定補聴器技能者でなくとも、優れた補聴器技能者はいるのですが、
患者が判断することは難しいですので、認定補聴器技能者かどうかを目安にすると良いでしょう。


3.語音明瞭度検査を実施している
補聴器専門店に行けば、特別な事情が無い限りは必ず実施する語音明瞭度(言葉の単音聴き取り能力)の測定ですが、
耳鼻咽喉科によってはこれを実施していないことがあります

補聴器外来において、補聴器技能者が診療報酬に関わる検査を行うことはできませんので、
耳鼻咽喉科でこれらの検査が行われないのであれば、未検査状態で補聴器外来を進めることになります。


どうして、そのような重要な検査を耳鼻咽喉科で行わないことがあるのかというと、事情はいくつか考えられます。

まず、語音明瞭度を測定できる設備が整っていない場合です。
聴力を検査するための機器 "オージオメーター" のうち、語音明瞭度の検査を行える機種と行えない機種があります。

設備予算を十分に確保した耳鼻咽喉科であれば、語音明瞭度の検査を行えるオージオメーターを購入されるのでしょうが、そうではない耳鼻咽喉科もあります。
市区町村が設置した医療センター等であれば、その自治体が定める予算内で全診療科の器機を揃えなけてはならず、内科や透析室に予算が多く割り当てられて、耳鼻咽喉科に割り当てられる予算が少なくなってしまうこともあります。


語音明瞭度を検査できるオージオメーターを用意しているにも関わらず、検査を実施しない医療機関もあります。
検査技師が在籍しているような大きな病院であれば特に問題は無いのですが、
街の開業医(クリニック)などの場合、語音明瞭度の検査ができる人材がいないということもあります。

オージオメーターの操作方法は誰が最初に説明するかといえば、オージオメーターのメーカーか納入業者です。

業者からの説明を受けた看護師が退職してしまったとか、業者からの説明を受けたが検査対象者が少なく忘れてしまったとか、そういったことを繰り返していくうちに、クリニックから語音明瞭度を検査するノウハウが失われてしまうことがあるようです。


そもそも、診療方針で語音明瞭度を検査しない耳鼻咽喉科もあります。
両耳の語音明瞭度を検査するには30分程度は必要です。
その間、スタッフ1名は検査に付きっきりにならなくてはならないため、他の業務はできません。

検査中の30分は、別の患者の聴力検査を行うことができません。
オージオメーターの中には、鼓膜や耳の骨の異常を検査する機能が一体型になっている機種もあります。
つまり、語音明瞭度の検査を行うことで、通常の聴力検査、鼓膜や耳の骨の検査を行いたい患者を30分お待たせしてしまうことになります。

街のクリニックの診療範囲では、語音明瞭度を検査したとしても、聴覚障害の診断と補聴器の調整くらいしか役に立ちません。

経営的な判断によって語音明瞭度を測定しないこともあるのです。


補聴器をより適切に調整するためにも、自身の言葉の聞き取り能力を正しく把握するためにも、できるだけ語音明瞭度の検査を行っている耳鼻咽喉科を選択してください。


4・不快閾値検査を実施している
不快閾値とは、音を煩いと感じるレベルのことを指します。
不快閾値を調べることにより、補聴器から大きい音を出さないように制限することが可能になります。

補聴器専門店であれば、特別な事情が無い限りは不快閾値の測定を行います。

しかし、この検査を行う医療機関はあまり多くはありません。

その理由は、語音明瞭度の検査を行わない耳鼻咽喉科とほとんど同じであるため割愛します。
この検査も、耳鼻科医の視点では、補聴器の調整や、耳鳴り治療くらいでしか役に立ちません。


認定補聴器技能者であれば、仮の不快閾値を予想して補聴器の調整を行いますが、経験則に基づいたもので精密性には欠けてしまいます。不快閾値を検査している耳鼻科を受診されるのが一番良いでしょう。


5・医師や補聴器技能者が適切な調整処方式を用いている
補聴器を用いてどのような音をどのように増幅するかを決める計算方法を "処方式" と言います。

補聴器の歴史とともに、これまで様々な処方式が考案されてきましたが、耳鼻咽喉科医師や認定補聴器技能者によっては、古い考え方に基づいた古い処方式を用いていることがあります

これは、あくまでも例えばの話なのですが、
著作をいくつか出している有名な補聴器相談医で、例えば都道府県の補聴器相談医のリーダー的な役割を担っているような医師であったとしても、推奨している処方式が古い考え方に則したもので、昨今の補聴器には適していないということがあるかもしれません。
(あくまでも例えばの話です)

古い考え方の処方式を最新の補聴器に使用してしまうと補聴器の機能を十分に活用できなかったり、補聴器の出力音量が過度に大きくて聴覚損傷に繋がったりすることが起こり得ます。


補聴器外来を受ける患者自身が、適切な処方式か不適切な処方式かを見極めるのは非常に難しいかと思います。

提案できる方法としては、補聴器外来で補聴器を試聴した際に、「どのような意図でどのような処方式を用いたか」を技能者に質問してください。

「〇〇という処方式を××の理由で使用した」という返答が得られれば信頼して良いでしょう。
ただし、××の理由が、医師の方針であるとか、会社の方針であるとか、日本でいちばん使われているとか、誰かからの受け入りのようなことを言っているのであれば、怪しいなと思ってください。

「あなたの最良の語音明瞭度は〇〇dBなので、日常会話が聞き取りやすいように調整しました」というように、処方式という単語を使わずに返答された場合は、怪しいなと思ってください。

処方式が何かを分かっていないような担当者だった場合は論外です。すぐに担当を変えてもらってください。


6・医師が試聴前から補聴器の価格帯を指示しない
「〇〇万円くらいの補聴器でいいよ」という医師がいます。
それは、高額な補聴器を購入してトラブルになることを未然に防ぐために安価な器種を勧める場合がほとんどでしょう。
あるいは、補聴器技能者から一定割合の販売紹介料を受け取っている医師の場合、高価な器種を勧める場合もあります。

補聴器は、患者自身の職種や生活環境によって、必要な機能や音量が違ってきます。
安価な器種では十分な効果を発揮しきれない場合もあります。
高価な器種に搭載されている機能を使わなかったということも起こり得ます。

予算に応じて補聴器を選ばれることは止むを得ませんが、予算に関係なく金額を指定された場合、
患者自身にとって一番良い補聴器を選択することができなくなることがあります。

補聴器を試聴した上で、その補聴器が適しているのかどうかを判断することを重要視している補聴器外来が望ましいでしょう。


7・医師が医学的根拠に基づかない片耳装用を指示しない
「補聴器は片耳にだけつければ良い」という医師がいます。
左右に大きな聴力差があるなど、適当な根拠に基づいていればそれでも良いでしょう。

耳掛け型補聴器や耳あな型補聴器が発売される以前であれば、
ポケット型補聴器を使用するしかないため、両耳につけるという考え方はありませんでした。

その頃の考え方を今でも持ち続けている医師、その医師に師事を受けた医師がいます。

補聴器は目の前の家族の声が聞き取れれば良いから片耳で十分だという考え方を持たれている場合もあります。

本当に目の前の人との会話だけを聞き取るだけで良い、そういう生活を今後も続けられていく方であれば、片耳装用でも良いでしょう。
患者一人ひとりの今の生活やこれからの生活を十分に検討して、片耳に使用するのが良いのか、両耳に使用するのが良いのかを考えられる補聴器外来を見つけてください。


8・海外メーカー取扱店を含む複数の業者を選択できる
補聴器外来を行っている耳鼻咽喉科では、担当している業者が一社だけという医療機関もあります。

一社でも、複数の補聴器メーカーを取り扱っている業者なら良いのですが、
単一メーカーしか取り扱っていない業者の場合は、補聴器の選択の幅が少なくなってしまいます。

複数メーカーを取り扱っている一社以上、もしくは単一メーカーを取り扱っている会社を二社以上が担当していることが望ましいです。

ただし、国産メーカーA社を単一で取り扱っている業者、国産メーカーB社を単一で取り扱っている業者、これらの2社が担当しているという医療機関については、少しだけ注意が必要です。

国産メーカーはハイエンドモデルの補聴器の取り扱いがなく、ミドルモデル、エントリーモデルの補聴器しか取り扱いをしていません。
つまり、ハイエンドモデルの補聴器が必要な患者に対して、必要な補聴器が届かないということが起きてしまいます。

高額な器種を取り扱っていないからこそ、これらの2社に対応させているという耳鼻科側の事情もあるかもしれません。


とある国産メーカーAは補聴器のほかに聴覚検査機器の取り扱いも行っております。
そのため、この国産メーカー系の販売店は、聴覚検査機器の保守点検技能にも長けています。
補聴器外来で耳鼻咽喉科を訪問した際に聴覚検査機器のメンテナンスも行ってくれるので、この国産メーカー系の販売店に補聴器外来を依頼している耳鼻咽喉科は少なくありません。

また、国産メーカーBは、自社製品を他社に卸売りすることはありません。また、自社でも補聴器販売店を積極的には出店せずに販路のほとんどを補聴器外来に定めています。
通常の補聴器店はメーカーから補聴器を仕入れてエンドユーザーに販売しておりますが、国産メーカーBは直接エンドユーザーに販売しているため、利益率が高い事業展開を行っています。
さらに高額な設備が必要な店舗運営を最小限に抑えて補聴器外来営業に特化することでコストカットに取り組んでいます。
そのため、耳鼻咽喉科に支払う紹介手数料の割合が、他社よりも高めに設定されているようです。


国産メーカー2社はそれぞれの特徴を活かして補聴器外来市場を拡大してきましたが、
患者からの要望が高まっていけば、今後は海外メーカーを取り扱う補聴器外来も増えていくことでしょう。


9・客観的評価だけで補聴器適応を判断しない
客観的評価というのは、補聴器外来の場合は主に補聴器を使用した状態での聞き取りの検査のことを指します。

病院内で行う検査結果のみで、患者がその補聴器の使用することが良いか悪いかを判断する補聴器外来には注意が必要です。

病院内での検査結果が良好であっても、実生活の場面では、音量が大きすぎたり小さすぎたりすることがあります。
また、病院内での検査結果は不良であっても、実生活の場面では、補聴器が非常に有効であるということもあります。


客観的評価は患者に対する補聴器の有効性を考える上で、非常に参考になりますが、
その結果だけに固執してしまうと、患者にとって最も良い補聴器を選択できなくなってしまうことがあります。


10・主観的評価だけで補聴器適応を判断しない
主観的評価とは、患者自身の個人的な感想に基づいた判断のことを指します。

患者自身が補聴器を着けてもまったく効果が無かったと話していたとしても、実際には患者の生活の質が大きく向上していたということがあります。
つまり、患者自身が補聴器の効果に気づいていないことがあるのです。

一方で、患者自身が補聴器を着けてすごく聴き取りやすくなったと話していたとしても、実際には補聴器を使用したことによって何も変化が無かったということがあります。
患者自身の気のせいや思い込みによる場合です。


主観的評価は非常に重要なのですが、それだけで判断してしまうと、非常に役に立つ補聴器を使用する機会を逃してしまったり、補聴器がただのアクセサリーになってしまったりしてしまいます。

先述したような客観的評価も取り入れながら、患者が補聴器を使用するべきか使用しないべきかを判断できる補聴器外来が望ましいと言えるでしょう。



以上が筆者が考える良い補聴器外来の特徴です。
10項目すべてを満たす補聴器外来は、各都道府県に1つか2つ、もしかしたら0ということもあるかもしれません。

それぞれの補聴器外来に、その補聴器外来だけの良さというものがあります。
相性の良い補聴器外来を見つけられるかが、今後の補聴器を使用した生活を大きく左右します。

しかし、補聴器外来は病院の中で行っているため、複数の補聴器外来を比較するということは現実的ではないでしょう。

メディア等で紹介された補聴器外来が、実は適切な調整処方式を用いていなかったということもあるかもしれません。


冒頭でも述べましたが、悪い補聴器外来というものはありません。

しかし、より良い補聴器外来、とても良い補聴器外来に辿り着くには手間も時間もかかってしまいます。

身も蓋もない話にはなりますが、現在の補聴器業界の現状を鑑みると、良い補聴器外来を探すよりも良い補聴器専門店を探した方が早いです。

もちろん、自宅のすぐ近くの付き合いが深い耳鼻咽喉科で補聴器外来を受けても構いません。
ご自身の生活状況を踏まえた上で、どうするのが一番良いのかをしっかりと考えて結論をみつけてください。